7.設計生産性の基本原理と実際               元・三菱電機株式会社 前川宗久

 本章では、モノ作りプロセスの上流に位置する「設計プロセス」について、それを革新・改善していくための目的・指標となるであろう「設計生産性」に関し、その基本原理ともいうべき考え方と、それを設計現場に実装・運用していく方法論を述べる。

 「設計」という行為が、社会にとって意味をなす有形・無形の「モノ」をゼロから創造する高度な知的作業であり知識集約形労働であることは論を待たない。また、それが企業、特に製造業にとって利益の源泉であることも、次のような先達の言葉を借りるまでもなく明白である。
    ●人間の知性と知的資産が企業にとってもっとも価値ある資産であり、
     企業の富の源は物質ではなく、価値を生み出すために使われる情報や知識である。
          <リッチ・カールガード氏:米国フォーブスASAP誌論説主幹>
    ●今や知識労働者は先進社会が国際競争力を獲得・維持するための唯一の生産要素である。
          <E.E.ドラッカー氏 「経営者の条件」:米国経営思想家 >

 ところが、知的作業である設計を「生産性」という視点で論述した金字塔的な文献は、筆者の浅学もあって見当たらず、インタネットによる文献検索でも核心を突くような最近のドキュメントは日本能率協会の出版物以外にヒットしない。敢えて言えばSoC(System On Chip)といわれる電子系デバイスの設計領域や製薬分野の新薬開発での「設計生産性」論述が一部に見られる程度である。

 また、近年の関西EACの発表事例でも、設計生産性を正面から捉えた研究発表は、残念ながら、長坂悦敬氏(甲南大学)が幅広い知的活動の側面から発表された内容にとどまっている。

 テーラー、ギルブレスから始まるモノ作りの科学的管理方法が、現代の生産現場を司るIE(Industrial Engineering)の礎を築き花開いていると同様程に、設計生産性とその生産性向上技術が、「重要性」の継続的認識こそあれ学問・技術として体系化されているようには思えない。今回の関西EACにおける「世に問う成果物」シリーズの編纂も、そのような問題意識が根底にある。

 本章では、「設計生産性の基本原理と実際」という見出しで、企業のモノ作り上流プロセスである「設計プロセス」の生産性と実情・方向性・方法論に、図のような位置づけで真正面から切り込んで大局的な整理にトライするものである。

      図  設計生産性原理の位置づけ

 前述したように、数少ない世の中の参考文献と関西EACの発表事例だけでは満足な構成が覚束ないために、筆者の浅薄な経験とひとりよがりの知見による部分が多分にあるところは容赦いただきたい。
本章が、とかく「見えづらい」といわれる設計生産性そのものの見える化と、それが故に「活動が評価されにくい」設計改善に携る多くの技術者の悩み解決の糸口になれば幸いである。
        <以下、詳細は本書参照>